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3. 瞳孔は黒いんです 〜お絵描きルーツを振り返る〜



 鏡で自分の目を見ても、真ん中が黒いのは分かっているし、いやもう当たり前のことなんですが。

 なんかついつい、瞳の部分って、同系色のグラデーションで塗ってしまいます。なんでだろう?と考えて、自分のお絵描き歴を遡るに、たどり着いたのは原点中の原点、唯一絶対的に影響を受けたあのアニメに違いありません。

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 当時私は星座オタクで、ギリシャ神話に憧れ、科学館の天文クラブに通い、星座の本を毎日持ち歩いて、88星座とギリシャ文字(注1)を丸暗記していたような子供でした。丁度、世間でアニメ「聖闘士星矢」が大ブームだった頃の話です。

 漫画・ファミコンは一切禁止でテレビも制限されていた我が家でも、遅ればせながら「聖闘士星矢」を見せてもらえることとなりました。「聖闘士星矢知らんの?!星だぞ?なんでおめーが見てないんだよ?」とクラスの男子にツッコまれつつも、ピンときていなかったんですが、いざアニメを見たらなんという絵の美しさ!!そして、星座と神話をモチーフにしたこの世界観!!!舞台もギリシャの神殿じゃないのちょっと!!・・・てな訳で、即、夢中になったのは、言うまでもありません。

 しかし、見始めたのが、12星座の11番目、宝瓶宮(みずがめ座)の回。白羊宮(おひつじ座)に突入するまでがそもそも超長いというのに、思いっきり終盤です。しかも、うお座の後の回を見逃して、何で戦ってるのか、いきさつはさっぱり分からないし、キャラ設定や関係がわずかに見えてきたところで、「十二宮編」が終わってしまいました。完全に消化不良です。

 その反動もあって、次に始まるシリーズにかける期待は、子供心に相当なものでした。ストーリーを最初から、欠けるところなく楽しむことができるのです。ようやくスタートラインに立ったような気分でもありました。それが、自分のお絵描き人生に多大な影響を与えた、「黄金の指輪編(アスガルド編)」でした。

 てか、前置き長すぎですね(笑)。瞳孔の話はどこいった。

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 後から知ったのですが、この「アスガルド編」、アニメが原作に追いついたために急遽挿入された、アニメ版のみのオリジナルのお話でした。そのためかどうかは分かりませんが、このシリーズならではの独特の雰囲気をたたえていたり、このシリーズのみの設定があったりします。例えば・・・、

 ・敵キャラを守護しているのが星座ではなく、北極星と北斗七星の各星である。
 ・北欧神話がモチーフ。舞台が極寒の地で、基本的に吹雪だの雪だの氷だのの世界。
 ・敵キャラ全員細身の美形で、基本的に北欧らしい超色白。

といったところが挙げられますが、これがことごとく自分好みの方向に転んでいて、もうはまりでした。守護星に出てくるα星、β星・・・は、覚えたてのギリシア文字でしたし、夏嫌い冬大好きの冬真っ只中生まれとしては、寒そうな景色を見ているだけでも幸せなのです(除くハーゲンの回、あれは地獄)。

 で、もう一つ、「アスガルド編」のキャラに顕著に見られる特徴として、

 ・瞳孔の色が、黒ではない。

というものがあります。北欧らしさや、氷を連想させる透明感を出すためでしょうか。肌をより白くし、髪にも濃い色を使わないのは分かりますが、瞳孔までも色を薄くしたのには、恐れ入りました。全キャラ、オレンジの瞳なら淡いオレンジと濃いオレンジ、緑の瞳なら淡い緑と濃い緑、といった色使いなのです。

 一方、原作にも、極寒の地シベリア出身の、金髪青い目の「氷河」というキャラがいるのですが、アニメでの彼の瞳孔は黒です。下図は、比較用に作成した画像です。瞳孔の部分の色以外は全く同じですが、受ける印象が全然違います。左は、透き通っている感があり、右は、ものすごく見られている感じがします。いかがでしょうか?

瞳孔の色を変えてみた

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 話変わって、瞳孔とはなんぞや。理科の時間か保健体育か、はたまた眼科でか、眼球の仕組みの図は誰もが見たことがあると思います。要は、「穴」ですよね。光を感知する器官に空いている穴、ということは、何があっても絶対に色は「黒」でなくてはなりません

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 ご存知のとおり、物体の色は、自ら光を発しない場合、他の光(太陽光や電気の光)が反射することで眼球に届き、感知されます。白色光はスペクトル分解すると、いわゆる虹の七色に分離されます。黄色に見える物体は、黄色以外の全ての色の光を吸収し、黄色の光だけを反射するので黄色に見える、という仕組みです。光源が白色光ではなく、例えば青しかない場合は、イルミネーションで浮かび上がる恋人の顔も、青一色になります。肌色を作り出す赤や黄色の成分が、元々の光源に入っていないからです。

 「白」も、その他の色も、目が光を感知することで認識されますが、「黒」だけは、全く性質が違います。黒い物体は、光を全て吸収して一切反射しないため、その物体から目に届く光そのものが無くて、黒く見えるのです。

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 眼球の話に戻ります。大きなダンボール箱に、直径5cmの穴が開いている状態を想像してください。穴は黒く見えるはずです。中に入った光が、穴から出てこないからです。もし穴に色がついているとしたら、ダンボール箱の中に電球があって、中から光を発しているか、箱の中が鏡張りされていて反射光が出てくる場合以外に、考えられません。

 瞳孔もこれと同じです。この穴から入った光を捕まえて逃さない(=反射しない)からこそ、目は、色を認識することができるのです。仮に、瞳孔が青色をしているとしたら、青色発光ダイオードか何かが眼球の中で光っている(!)か、青色のみを強烈に反射していることになります。つまり、その人は青色を見ることができません。

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 そう考えると、「アスガルド編」のキャラクターの特殊さが、浮かび上がると思います。主人公たち5人の青銅聖闘士が皆、生き生きとして、精気に満ちあふれているのに対し、「アスガルド編」のキャラクターは、お人形のような理想化した美しさをたたえているように感じます。この印象の差異は、瞳の色使いの違いが作り出しているのではないでしょうか。このシリーズならではの舞台を設置したり、背景やキャラ設定をするのは、当然のことでしょう。しかし、人間であれば、物理的・生物学的に100%黒でなくてはならない部分の色を、思いっきり変えた制作スタッフ様たちの感性の鋭さには、ただただ感心するばかりです。

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 自分が最初に夢中になって楽しめた「聖闘士星矢」は、「アスガルド編」でした。厳しい家庭で、アニメショップには行かせてもらえず、こっそり漫画を買おうにも原作には無いシリーズで、大好きなキャラクターたちを手元に置くために、自分で描くようになりました。友達がくれたオフィシャルな便箋や、借りたアニメ雑誌を見ながら、最初の頃は、ひたすら忠実にアニメのイラストを再現し、練習していました。当然、瞳の色使いも、です。

 その癖が後々までさっぱり抜けず、大人になって、DVDで最初から通して見直したときに、ハーゲンのドアップのシーンで、淡い水色の瞳に「ん?!」とひっかかるまでは、自覚さえもしていませんでした。時々、無意識にちゃんと黒で描いていたこともありますが、同系色で濃い淡い、が、やはり自分の原点なのです。



(2008.11.7)


注1)各星座を構成する星を、明るい順からα星、β星、γ星・・・と、ギリシア文字の順番で名前を付けている。・・・ことになっているが、大熊座の北斗七星のように、並び順に付けられている星座もある。


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